こんにちは。
最近読んで面白かった本について書きます。
ここ数ヶ月は1日の本を読む時間が減っていますが、読んだ本がどれも楽しくて幸せです。
以下、その中でも印象に残った3冊です。(どれも小説)。
▪️バーバラ・ピム『よくできた女(ひと)』
私はSNSで気になる本の情報を目にすると、とりあえずタイトルだけをメモすることがあるんですが、たまにそのメモを読み返すと「あれ?なんでこの本を読みたいと思ったんだっけ?」となるものがあります。
この本もそんな1冊でした。
あらすじを確認しても「1960年代のロンドン、30歳過ぎ独身女性の一人称視点で語られる日常」とあり、どちらかというと苦手なタイプの小説じゃんと思いました。(以前『ジェーン・エア』や『高慢と偏見』などを読んで全然刺さらなかった。)
が、この小説は最初からスルスルと読めてクスクスと笑える部分が何ヶ所もありました。上記2作品より時代が下っていることが大きいのかな、なんとなく主人公たちの価値観が少しは理解できるような。
主人公ミルドレッドは教会勤めをしつつ、フラットでひっそり一人暮らしをしていたみたいなんですが、ある日下の階に華やかな美男美女の夫婦が引っ越してきて、何かと振り回されていきます(自分から首を突っ込んでいっているように見える時もある)。
その様子が主人公のセルフツッコミも相まって、なんだか淡々としつつコミカル。
タイプの違う相手と接する際にしどろもどろする感じや、自身が独身であることに対しての他者の目を気にする感じや、友達に新しい仲良しさんができてその仲良しさんに対して複雑な気持ちになる感じや…。
でも主人公の表面上の会話は当たり障りないものばかりで、自分からトラブルを起こすようなことはしません。心の中で面白いことを言ってるんです。
国と時代が違えども、なんだか共感できるところが多かったです、ミルドレッド。
タイトルのよくできた女(ひと)というのも「つまらない人」的な意味で作中主人公にかけられる言葉ですが、私はミルドレッドみたいな人が好きです。つまらなくないです。
イギリス国教会や当時の時代背景などを理解していたらよりこの作品を楽しめるんでしょうけど、そういう知識がなくても案外と十分に楽しめました。
▪️梨木香歩『椿宿の辺りに』
梨木さんの最近出た小説よねと思って確認したらもう5年前の作品でした。まあ、そんなことはどうでも良いのです。とにかく楽しく読めました。
こちらのお話は四十肩に悩まされる「山幸彦」という少し珍しい名前の30代の男の人が主人公(舞台は現代日本)。
この山幸彦という名前は、「海の幸、山の幸」のフレーズでおなじみのある古事記のエピソードに出てくる登場人物にちなんで、主人公の祖父に付けられたものです。
名前の由来を含めた親族の事情あれこれ、別家族に貸していた実家の歴史的事情があれこれ絡んだ問題ごとが、色々あって今回四十肩の痛みとなって主人公に降りてきました。(全然うまく説明できない…。)
ご先祖たちの事情、古事記のエピソード、実家の地理的な問題…。こういうのが絡まり合った因縁めいた話、私結構好きなのかもしれません。でもただ読むだけでは全体像を把握しきれず、主人公の親族の家系図を書きながら読み進めていきました。
主人公は結構現実的な性格なんですが、いかんせん普通の病院に通っても四十肩の痛みがちっとも改善されないので、藁にもすがる思いでしぶしぶ怪しい話にも耳を傾ける温度感も読み心地の良さになっていたかもしれません。
梨木作品、エッセイや絵本も好きなんですが久しぶりに小説読むとやっぱり小説もすごく楽しくて、過去作も読み返したくなりました。
小説ムーミンシリーズの最後から2番目の作品ですね。一応中学生の時に一度読んだんですが、内容をほとんど覚えていない(というか脳内改竄していた?)ので新鮮な気持ちで読めました。
他の作品と比べて登場人物が少なく、初期作品と比べると地味目な内容にも見えます。でも、そこが良かったです。しみじみとした良さ。
パパの一存で一家は住み心地最高のムーミンハウスを後にして、灯台のある小さな島に移り住むんですが、その暮らしがパッとしない。
新天地での新生活だから仕方ないんですが、うまくいかないことの方が多く書かれていたような…。厳しい自然に翻弄されるし、先住民とコミュニケーションがうまく取れない(先住民は悪くないと思う)。でも物語の最後は一応各所と折り合いがついた感じに着地するので読後感は良いです。
あとは、単純に自分の読解力がなくて「これはどういう意味?」という描写が度々出てきました。(ムーミンとモランとランタンの関係とか何だか示唆的です)。みなさんの感想文を読んでみたいですね。
分かりきれないのに、それでもここ数ヶ月ほぼ毎日この本を手に取っていたかもしれません。1日に1ページくらいしか読まない日もありましたが、それでも1日に1回、少しでもこのムーミンワールドに入れるのが心地よかったんです。
あと表紙のイラストの、透明で深くて暗い翠色の海がすごく好きで、それも何度も本を手に取る理由になっていたと思います。毎回うっとりと眺めていました。(もちろんたくさんの挿絵もどれも可愛い)
わがままなムーミンパパ、相変わらずマイペースなミィ、思春期の入り口に立つムーミン、相変わらず優しいけどちょっと疲れたムーミンママ。
ムーミンママは、以前の自分の記憶の中ではこの巻で鬱っぽくなっていたんですが、勘違いでした。
でも、やっぱりこれまでの巻のママと比べると、ちょっと違いますよね。周囲の人のケアを最優先させる「理想のお母さん」からは少し距離を置いていて、(ちょっとは)自分自身を優先させ始めているような(それでも十分めちゃくちゃみんなに優しいですが)。
これは中学生で初めて読んだ時と変わらない感想ですが「こんなムーミンママを見られてよかった」と思います。自分にとって理想的なお母さん像であるムーミンママの、ママすぎない側面。ムーミンママのことがもっと好きになりました。
読むたびに新しい感じ方ができるムーミンシリーズ。トーベさんの他の作品含め、これからも継続的に読んでいきたく思います。
おしまい。