ある夏の夜、ポインミーはなぜか眠れませんでした。
からだは眠りたがっているようですが、目がパッチリしているのです。
(明日もやることがあって寝坊できないのにねえ、困ったなあ)と、ポインミーは思いました。
しばらくの間、先日ピッピと行った美術館での楽しかったあれこれを思い出しながらベッドの中で過ごしていましたが、眠くなることはありませんでした。
「まあ、こんな日もあるか」
そう言うと、ポインミーはのそりとベッドから出て、台所へ向かいました。
もう寝るのは諦めて、しばらく起きていることにしたのです。
部屋の中は明かりがついておらず暗いですが、目がそれに慣れてしまっていたので、ポインミーはすたすた歩いていきました。
台所でコップにお水をくんでその半分を一気にキューンと飲み、またお水を汲み直すと、それを持って窓辺に寄っていきました。
部屋の中は昼間の暑さが少し残っていますが、カーテンをなびかせている夜風が気持ちよいです。
ポインミーはカーテンと窓を開けると、扇風機をつけ、虫除けのお香を焚き、椅子から座布団を取るとそれを窓辺の床に置き、そこに腰を下ろしました。
庭の方を見やると、暗くてよく見えませんが植物たちはすやすや眠っているようです。
そして空を見上げると・・・。
まあ星のきれいなこと!
今日は新月だからか、いつもより星がたくさん見えます。
じーっと眺めれば眺めるほど、輝きの控えめな星もどんどん見えるようになり、空は星だらけです。
白い星、黄色い星、赤い星、ピッカリ強く光る星もあれば、ふるふる震えているように見える星もあります。
そんな星たちの迫力に、ポインミーはしばらく見惚れていました。
しばらくしてから、ポインミーは自分の知っている星座はないか探してみました。
2つ分かりました。
2つ見つけられたことが嬉しかったですが、同時に(こんなにたくさん星があるのだから、もっといろんな星座を見つけられるようになりたいな)とも思いました。
今度図書館で星座の本を借りてみよう、と心に決めたポインミーでした。
とはいえ、星座が分からなくても星空の美しさは変わりません。
ポインミーは引き続き視界に広がる景色を楽しんでいました。
すると一瞬、星がキラリと線を描くのが見えました。
(やあ、これが流れ星だな)
流れ星が見えたときに願いごとをすると、叶うとかどうとか。
「・・・」
ポインミーは願いごとを考えてみました。
「明日もおいしくごはんが食べられますように!」
もうとっくに流れ星のいなくなった空に向かって叫びました。
ポインミーはそのうち目にとまる星同士をつなげて、自分だけの星座を作って遊び始めました。
「あれがピッピ座」
「あそこのはブーンちゃん座」
「この4つの星を四角につないで、お布団座」
「あの赤くピカッと光っている星は・・・トマト座」
夜空がポインミーの好きでどんどんいっぱいになっていきます。
ひとつひとつの星座にお話も作っていきます。
「あるところにピッピという心優しいこがいました。ピッピはずっと外の世界を見てみたいと思っており、ある日旅に出ました。最初にたどり着いたのは、緑豊かな妖精の国でした・・・。」
「かばん職人のブーンちゃんはみんなの人気者。ある日ブーンちゃんの作ったかばんが国の王様の目にとまり・・・。」
頭の中に浮かんでくるのはどれもふわふわした物語でしたが、ずっと続いていきました。
きっと明日には忘れてしまうんですけどね。
そのことを分かった上で、ポインミーは自分だけの、今日だけの、星座と物語を楽しみました。
そうこうしているうちに、空の東側の色が少しずつ変わり始めました。
朝が来るのです。
朝日を迎えるのは一体いつぶりでしょう。
太陽が、光が、世界の色を塗り替えていきます。
なんてきれいなんでしょう。
新しい1日はこうしてはじまるんだね。
太陽の作り出す世界の美しさを見つめているうちに、ポインミーはようやく眠くなってきました。
あくびをしながら寝室に戻り、深呼吸を1回したらもう眠りの中。そして1時間か2時間しか寝ていないのに、いつもと同じ時間に目が覚めました。しかも不思議とシャッキリしており、その日は1日元気に過ごせました。
夕ごはんはカレー。ごはんとカレーをお皿に盛り付けて、その上にナスビを輪切りにしたものとオクラを油でカリッとなるまで焼いたものを乗っけました。夏野菜カレーです。
付け合わせはキュウリの浅漬けで、少し甘めの味付けに。でも、黒こしょうのピリリとした辛みがよいアクセントになっています。
もぐもぐもぐもぐ。
ポインミーは今日の食事もおいしく食べています。
どうやら昨日の願いごとは叶ったようです。
食後、ポインミーはスイカを食べながら昨日のことを思い返しました。
眠れなかったのは、誰かがポインミーにあの夜空と朝日の美しさを見せたかったからかもしれないね、と。
今は夏で、昨日は晴れていて、月も出ていなくて、星空を楽しむには最適なタイミングと思われるもの。
すてきなプレゼントをありがとう。
今度はハイキングもかねて、町外れの天文台にも行ってみよう。
またいつか、朝、うんと早起きをして、1日のはじまりの光も浴びたいな。
どんどんやってみたいことが出てきます。
そんな思いをポインミーは全て日記に書きました。
そして、この日はいつもより早くベッドに向かうと、すぐさまストンと眠り、朝までぐっすりでした。
眠れない夜も、その次の日も、楽しく過ごせて良かったね、ポインミー。